5.ニュー・アルバムと今後の音楽について
Q)ダーヴィッシュは基本的にはアイルランドの伝統に根づいたグループですが、一方で『アット・ジ・エンド・オブ・ザ・ディ』(TRCD0093,1996)
ではスウェーデンのグループのヴェーセンと共演したり、また最近では南米のギター(ティプレーtiple)も使う事があるそうですね。こうした異文化との交流の試みは今後も積極的にやっていくのでしょうか?
B)ティプレーはニュー・アルバムでも使うよ。私は楽器を無くしてからは多くの楽器をツアーに持ち歩く事を止めたのだけれど、録音には使う予定だ。それは2年くらい前にコロンビアのボゴタで手に入れたものなんだ。
世界中を旅する事の最大の楽しみの一つは、各地のミュージシャン達に出会って彼らの音楽を聞ける事だ。例えばスウェーデンではヴェーセンに出会って良い友達になった。私達は彼らの音楽に大変感銘を受けたので、そのアルバムで演奏してくれる様に頼んだんだ。来年もデンマークのコンサートで共演するつもりだよ。
C)ヴェーセンは私達の楽器よりも低い音域の楽器を持っているわ。低い音のギターとか私達の持っていないパーカッションとか...それから彼らのニッケルハルパはとても高い音でこれも私達には無い音域だわ。だから二つのバンドが一緒になると合計11人が音を消し合う事もなくて、とてもファンタスティックなの。
思えばブズーキやマンドーラやアコーディオンも異文化との接触がなかったらアイリッシュ・ミュージックに持ち込まれる事はなかったのだから、ティプレーも何年後にはアイリッシュ・ミュージックの楽器になるかも知れないわね(笑)。
Q)ヴェーセンとの共演は大変興味深い事で、可能ならばライヴ・アルバムでも作って我々日本のファンにも聞かせて頂きたいですね...
C)とても良いコラボレーションなの。似ているようで違う部分もあるので、私達とヴェーセンは互いの音楽を愛しているのよ。
註)ヴェーセンに関する詳しい情報は、クルナ・ミュージックのヴェーセン・ホームページを参照下さい。
Q)この『アット..』のあともヴェーセンとは共演していたのですか?
C)ええ。...それから次のアルバムではペルシャのカヌーンというハープの様な楽器も使う予定よ。多分アイリッシュ・ミュージックでは始めての事だと思うけれど。ええとあの楽器は何弦あったっけ?
B)多分、50弦ぐらいだったかな...
Q)誰がそのカヌーンを演奏するのですか?
C)アプシャロムというイスラエル人の男性で、素晴らしいミュージシャンよ。私達の音楽に良く合っていて、とても美しい音です。
Q)丁度、次のアルバムについてどの様なものになるのか伺おうと思っていたところなんです。一つにはその様な今までのアイリッシュ・ミュージックに使われていない楽器が登場するのですね。するとサウンドは実験的なものになると?
B)でも、ダーヴッシュの音楽ではあるんだ。今回のコンサートでも新曲を幾つかやっているよ。今までの曲とは一寸違うと思うのだけれど。
Q)曲と言えばポール・サイモンの歌("An American Tune") を収録する予定とか?
〔注:この辺りの情報は英THE LIVING TRADITION誌2002年9/10月号の記事による。〕
C)その歌は9月11日の同時テロの後にニューヨークのチャリティ・コンサートで演奏したわ。私達はより多くのコンテンポラリー・ソングをやるつもりよ。今世紀に書かれた歌なんかもね(笑)。昨夜もボブ・ディランの歌を歌ったし。でも、ポール・サイモンの歌は他の曲から余りにも違った感じなのでニュー・アルバムには収録しないでしょう。ニュー・アルバムにはダブリンのブレンダン・グレアム(Brendan
Graham)の歌を入れるつもりよ。
Q)彼はシンガー・ソングライターなのですか?
C)いえ、ソングライターで本も書いている人なの。彼はユーロビジョン・ソング・コンステトで受賞した歌を2曲も書いているのよ。いろんな異なったジャンルの歌を書く人で、私達は彼の歌をデモテープでは何度かやっていました。
Q)それは楽しみですね。
C)私にとってもね、ハハハ(笑)。
Q)ところで、かつてブライアンさんが「ブズーキがアイルランド音楽に取り入れられるのに長い時間が掛かったように、アイルランド音楽はやっくりと変わってゆくものなのだ」と発言されているのを読んで感銘を受けた事があります。次のアルバムでも新しい試みは色々やられると思いますが、基本的にはいたずらに新しい音を求めるのではなくて、自分たちのルーツの音楽にじっくり取り組みながら時間を掛けて変化させていくのが自然だという事ですね。
B)全くその通りだよ。ニュー・アルバムも新しい要素があってもダーヴィッシュの音なのでこれまでのファンも決してがっかりする事はないだろう。もちろん進歩は必要なものでダーヴィッシュは常に伝統音楽に対してモダンなアプローチを取ってきたんだ。精神的にはジャズやロックの様にね。私達の観点からはアイリッシュ・ミュージックは今後も大きく変わるのではなく、力をつけながらどんどん大きく進んでいくと思いたいし、その様に進んでいく事で更に多くの人々が興味を抱いてくれて演奏する様になるだろう。
C)私はブズーキは1970年代のアイリッシュ・ミュージックを発展させるのに大きな貢献をしたと思っているわ。時代的にも人々は新しいものを求めてケイリ・バンドの音では満足出来なくなった。そうした時にブズーキやマンドーラ、ギターなどがアイリッシュ・ミュージックを完全に新しいレベルに、クールな音楽にしたのよね。プランクシティやボシー・バンドなどもそうした時代の中にあったのよ。
B)ブズーキのアイリッシュ・ミュージックへの導入は丁度、モダン・ポップ・ミュージックに於けるエレキ・ギターの導入の様なものだと思う。これはパラダイム・シフトなのだ。ブズーキの導入によってアイリッシュ・ミュージックは老人だけのものではなくなり若い人達が聞けるような魅力を持つようになって、今日があるのではないかと思う。
Q)とても有益なお話を有り難うございます。最後にお二人のそれぞれに伺いますが、ご自身にとって一番お好きなダーヴィッシュのアルバムは?
B/C)ええ..っと(当惑した様子)。
C)ええと...私は『エンド・オブ..』と、それから『ライヴ・イン・パルマ』(TRCD0094,'97)も。特にその前半ね。
Q)その理由は?
C)うーん、私はこの頃の歌が好きですから。美しい歌で何年経ってもこの頃の歌が好きね。
B)私も『ライヴ・イン・パルマ』には多くの思い出があるね。これには当時の私達がとても良い形で記録されているんだ。私はこの様なアルバムを作れた事を誇りに思っている。
C)このアルバムみたいに一晩のコンサートを最初から最後まで丸ごと収めたアイリッシュ・ミュージックのライヴ・アルバムは他に余りないでしょう。
Q)どうも、有り難うございました。
〔このインタビューは2002年12月9日に東京・渋谷にて行ったものです。本稿の文責は筆者個人が負うものですが、インタビューに際しては、丸山京子さんに丁寧かつ適切な通訳をして頂き大変お世話になりました。〕(2003.1.13白石和良)