マディ・プライア&ザ・カーニヴァルバンド インタビュー



4.ジャイルス・ルインの音楽活動について

Q)それでは、こんどはジャイルスさんの活動について伺いたいと思います。〔と彼の関連の色々なCDを取り出した。〕

M(マディ))〔CDを見て〕おお、貴方(ジャイルス)の人生ね(笑)!

Q)ジャイルスさんは、カーニヴァル・バンドを結成した後にデュファイ・コレクティヴを結成したのですよね。貴方自身にとってこの二つのグループの音楽目的の違いは? 

注)デュファイ・コレクティヴは、1987年にジャイルスと、ポール・ベヴァン(ホイッスル、スライド・トランペットほか)、ウィリアム・ライオンズ(フルート、リコーダー、バクパイプほか)、スザンナ・ペル(ヴィエール、パーカッションほか)などのミュージシャンによって結成された。現在までに7作のアルバムをリリースしており、名実ともに今日の英国のトラッド古楽を代表するグループの一つである。なお現在カーニヴァル・バンドに参加しているパーカッション奏者のラフ・ミズラキは一時このグループのメンバーだった。

            
                                        

G(ジャイルス))カーニヴァル・バンドはその名前が示している通り、古楽にいろいろなものを取り入れてひっくり返すバンドなのです。これに対して、デュファイ・コレクティヴの方はもう少し中世やルネッサンスのレパートリーを中心にして、シリアスにやるグループです。シリアスと言っても息苦しいという様な意味でのシリアスじゃなくて、取り組み方がもう少し正統的という意味ですが(笑)。

Q)なるほど、そのデュファイ・コレクティヴについてなんですが、最近のアルバムを見ると特にスペインの音楽に凝っているみたいですが何か理由があるのでしょうか?

注)デュファイの最近の2作は、13世紀のスペインの聖母マリアを讃える歌を集めた『Miracles』 (英CHANDOS CHAN9513) 、15〜16世紀のスぺインの宮廷音楽を特集した『CANCIONERO』 (英AVIE AV002,'02) とスペイン音楽ものの傑作が続いている。

G)スペインの音楽は様々な曲があってバラエティーに富んでいますし、スペインの特に古い音楽はイスラム、つまり中東の音楽と共通するものが多いにあるのです。私達はもともと中東の音楽も好きですから、そうした部分でも好んでいるのです。まだリリースはしていませんが、もう一枚、スペインのラヴ・ソングを中心としたアルバムも作りました。

Q)もう一つ、ジャイルスさんの別の活動についての話ですが、アフター・アワーズというアイリッシュ・グループでフィドルを弾いていた事がありますね。ジャルスさんはもともとアイリッシュ・ミュージックがお好きだったそうですが...

注)アフター・アワーズAFTER HOURS は1980年代後半〜1990年代の前半に活動してい英国のアイリッシュ・グループで、『HUNG UP AND DRY 』 (英CELTIC MUSIC CM067) と『UP TO HERE』 (同CMCD069,'94)の2作のアルバムを発表しており、ジャイルスはこの両方に参加している。他のメンバーはアラン・バーク(vo,g)、ティム・ポッツ(bouzouki)、トーマス・リンチ(uillean pipes) 。これはインタビューの後で聞いた話だが、基本的にはアイリッシュ系のイングランド人によるグループだが、ジャイルス自身はアイリッシュ系ではないそう。彼は最初にいたフィドラーの後任として加わったもので、他のメンバーとはセッションを通じて親しくなったという。またこのグループが活動を中止した理由は、リーダー格のアランの家庭的な事情によるものだったようだ。ところで、「このグループ名はやっぱりボシー・バンドのラスト・アルバムから?」と確認したところ「まあ、半分はそうだね」という返事であった。

G)何よりもアイリッシュ・ミュージックはパブで演奏されている音楽だという事がいいですよね。とてもカジュアルな感じで、皆が座って自然に音楽が始まるというところがね。私が今まで経験した音楽体験の中でも最高と言えるものは、夜遅くのアイリッシュ・パブのセッションで、それは本当にマジカルなものがあると思います。それから世界のどこに行ってもアイリッシュの人々はいるし、アイリッシュ・パブも..きっと東京にもあるでしょう。だからどこでも行けばそこでミュージシャンと出会ってセッションが生まれる、そこが魅力ですね〔隣でこれを聞いたマディが「ワッハッハ」と笑う〕。

Q)東京にもアイリッシュ・パブが沢山ありますから、是非セッションを楽しんでいって下さい。

G)それじゃ、フィドルを持って行こうかな(笑)。

Q)さてデュファイ・コレクティヴにも参加しているシンガーのヴィヴィエン・エリスさんとのデュオのアルヴァについても一言伺いたいと思います。きっかけはやはりデュファイで彼女と一緒に活動していて最小限のデュオをやりたくなったという事なしょうか?

注)アルヴァALVAのアルバムは『LOVE BURNS IN ME』 (英BEAUTIFULE JO RECORDS BEJOCD-40,'02)で、ジャケットには「ブリテン諸島とフランスの中世および伝統の歌とフィドル音楽」と記されている。

G)確かにその様にシンプルなものを作りたいという事もあったのですが、彼女も私も中世の音楽と伝統音楽に関心があって、この両方の音楽に必ず繰り返して現れるテマは男女の出会いなのです。例えばこのアルバムの冒頭の「LOVELY JOAN 」という歌もある男性が女性と出会って恋をして、指輪を受け取って欲しいと頼むのですが、受け取って貰えない....これに続いてメドレーとして演奏した「A UNE AJORNEE 」はフランスの曲なんですが、これも似たようなテーマの歌です。このように共通するテーマの歌を集めたアルバムにしようというのがアイデアでした。

Q)ヴィヴィエンさんのヴォーカルが想像以上にトラディショナルなフィーリングに溢れているのにも驚きました。彼女は以前から沢山のトラディショナル・フォーク・ソングを歌っていたのでしょうか?

G)うーん、そうですね。彼女は中世の音楽を歌う以前にトラディショナル・ソングを歌っていました。

Q)ジャイルスさんはご自身を、もともとアーリーミュージックのミュージシャンとか、フォークのミュージシャンといった意識はしているのでしょうか?

G)それは分かりませんね。いろいろな音楽を聞いて自分の興味を持てるものを自分なりに捉えてやっているミュージシャンという事しか分かりませんね。難しいですよ、自分を定義するという事は(笑)。

M)ハハハ、誰も自分自身を定義するミュージシャンはいないのじゃない。例えばヘビー・メタルの神と言われている人でも自分からはそうは言わないわ。私自身も人からはフォーク・ミュージシャンと言われるけれど、フォークは私のやっている事の一部であって自分からはそうは言いたくないですね。そう言ってしまうと自分に制約を課す事になってしまいますし、単にミュージシャンで良いのじゃないですか。

Q)これは皆さんに伺いたいのですが、ところでマディさんとカーニヴァル・バンドがやっているような、トラディショナル・フォーク・ミュージックと古楽の接点の様な音楽は実に興味深いものがありますが、特に英国では昔からこのフォークと古楽の交流が行われてきた偉大な歴史があると思います。例えば昔、シャーリー・コリンズなどは古楽のミュージシャンと共演した事がありますし、また古楽の世界でも偉大なデヴィッド・マンロウが各地の民族音楽を研究してその要素を取り入れた事はよく知られています。こうした先人達の仕事についてどう思いますか?
                                       

M)実際には、みなそれぞれ違う事をやっていますね。あるものは上手くいったし、あるものは上手くいかなかった。つまりそれまでなかった新しい事をやるには必然的にリスクがあるので結果的に失敗する事もあるのです。例えばデヴィッド・マンロウとか、シャーリー&ドリーはとても上手くいったと思うけれど、シャーリーとディヴィー・グレアムの共演はそれほど上手くいったとは思わないわ...

注)シャーリー・コリンズは1935年サセックスの生まれで、1960年代〜70年代にイングランドを代表する女性トラッド・シンガーとして活躍した。彼女には2歳年上の姉のドリー・コリンズ(オルガン奏者)との共同名義のアルバムが幾つかあるが、ここで話題になっているのは、1969年の『ANTHEM IN EDEN』 (英HARVEST SHVL754)や1970年の『LOVE DEATH & THE LADY 』 (同SHVL771)の事で、これらの作品はデヴィッド・マンロウやクリストファー・ホグウッドといった古楽界のアーティスト達との共演で、トラッドと古楽の融合を試みた歴史的な作品である。またシャーリーには今日の英国フォーク・ギターの始祖的な存在のディヴィー・グレアムとの共演作『FOLK ROOTS,NEW ROUTES 』 (英DECCA LK4652,'64) もあり、これも斬新な音楽を試みた重要作であるが、但しこちらは音楽的にはトラッド+古楽ではなく、史上始めてジャズ〜ブルース系のギターの伴奏で英国トラッドを歌ったもの、一言で言えばあのペンタングルの先駆けの様な作品である。

G)デヴィッド・マンロウは、埃を被ったようなものだと思われていた音楽を大衆化したという意味で大きな意義のある仕事をしたと思います。それまで一度も聞いた事がなかったような人々を古楽に触れさせたのです。実はデュファイ・コレクティヴもまさにそれと同じで、知られていないものを皆に聞いて欲しいという気持ちでやっているのです。

注)デヴィッド・マンロウ(1942-1976) はその短い生涯の中で、自身の活発な演奏活動(中世〜ルネッサンスの様々な管楽器等を演奏した)に加えて、数多くのラジオの教育番組や著作を通して古楽の教育・普及に多大な貢献をした。

M)それはスティーライだって同じよ。

       

    
     

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