Q:それでは話題を変えて、ミホールさんの最近の仕事の中で興味深いものの一つですが、『COIS
MARA THOIR SA RINN』というトラディショナル・ミュージシャンのコンサートのアルバムで司会をしていますね...。
ミ:ええ?..いや、それは僕ではなくて同姓同名の別のミホール・オ・ドーナルなんだよ。
ト:最初、それは無許可で出ているものかと思ったわ。
ミ:そのミホールはアイルランド語のテレビ局に出ている人でフットボールの解説者をやっているんだ(笑)。彼はTVの有名人なんだよ。
Q:演奏していないのでどうも変だと思っていましたが(笑)。それでは、トリーナさんとモレートさんの最新のアルバム『心の絆』(Idir an Da Sholas-berween the two lights)(日本盤: ビクターVICP-61035) に話題を進めましょう。このアルバムには"Tidy Ann"のような楽しい歌から、"THE BEST CREW OF MEN"のような涙無しには聴けないような歌までいろいろな歌が入っていますが、どういう基準で歌を選んだのですか?
ト:またしても特にポリシーやプランは無かったのよ(笑)。
モ:私達は二人でそれぞれの歌いたい曲があってそれを持ち寄ったのよ。たとえば私は予てからネリー叔母さんの持ち唄だった"Ni se ina la"を歌いたかったし、トリーナはいつも"Tidy Ann"を歌いたかったという訳です..。
ト:私達が歌を決定したのは最後の数分だったわ。私はカハル・マッコーネルから貰ったカセットを持っていて、それはファーマナとかカウテンティ・ダウンなんかで収集した私の好きな歌を集めたものだったけれど、その中に"Tidy Ann"も入っていたの。..つまり私達は真剣に考えて歌を決めたのじゃなくて「楽しむ」為に選んだのよ。
モ:そう「楽しむ」為にね。..."The Spanish Lady" は私は20年以上前にフランク・ハートの歌で聴いていたの。"Donall Og" も最初に聴いてからいつも歌いたいと思っていた歌だし....。
Q:つまりこのアルバムはお二人がずっと親しんでいた歌でまだ録音していないものを選んで歌ったという事なのですね。
モ/ト:そうです。
Q:その"The Spanish Lady"ですが、これはアンディー・アーヴァインが歌っている"Patrick Street"みたいな内容の歌(主人公の男が街の女に引っかけられるという失敗談を歌ったもの)なんですよね?
ミ:そうだ。これは「ダブリンの街頭の女の歌」の一つなんだ。(物語の中で)主人公と女は結婚したのかって?勿論そうは思わないよ。
Q:ところで最近はモレートさん達はどういったソースから新しい歌を覚えているのですか?
モ:私は普通は夫のカハル・ゴーアンCATHAL GOAN に頼むわ(笑)。彼には長い間集めた膨大な歌の蓄積があって、しかもいつも私が歌うのに相応しい歌を探す事を心掛けていてくれるのです。
Q:彼は放送局で働いている方ですよね?
モ:彼はTV局の仕事をしているのだけれど、昔からフォークロアに関心を持ってからフォークロア部門で働いていて、シェーマス・エニスなどの人達が1940〜50年代にアイルランドで集めた歌のコレクションを編纂する仕事にも係わっているのよ。だから彼はアーカイヴの膨大な歌を聴く事が出来るのよ。それからフィールド・ワークにも関心を持ちつづけているわ。
ト:彼はまたアイルランド語の最初のTV局の創設者の一人でもあるのよ。
Q:それは素晴らしい環境に恵まれているのですね。さて今度はミホールさんに伺いますが、このパディ・グラッキンとの最新アルバム『リプリーズ(再訪)』
(REPRISE)は本当に素晴らしい作品ですが、大変時間を掛けてつくられたそうですね..。
ミ:録音するのに2年間以上掛かったんだ。ずっと録音していた訳じゃない。その間に沢山のフットボールを見たり、ゴルフをやったりしながらね(笑)。スタジオではなく人の家を借りたので、それが使用可能な時に録音したという理由もあるし、担当したエンジニアも全然別のプロジェクトの仕事を平行してやっていたので彼の時間が空いている時に録音したという事情もあるんだ。
Q:ダブリンで録音したのですよね?
ミ:そうだ、ダブリンの友人の家でね。
Q:このアルバムを作る時、かつて貴方がケヴィン・バークと作った『PROMENADE 』( アイルランドMULLIGAN LUN028,'79)や、『PORTLAND』 (米GREENLINNET SIF1041,'82)といったアルバムを意識したのでしょうか? これらは同じくフィドラーとのデュオ・アルバムですが。
ミ:いやそんな事はない。完全に違うものだからだ。パディ・グラッキンとケヴィン・バークは共に偉大なフィドラーだが完全に異なったスタイルの持ち主だ。
Q:その違いをミホールさんの口から説明して欲しいのですが。
ミ:パディは多くの場合より早く演奏するし、よりパワフルなんだ。ケヴィンは繊細でライト・ボウ(軽い弓使い)なんだ。対してパディーはヘビー・ボウ(重い弓使い)というかストロング・ボウだね。パディの音楽はドニゴールのもので、ケヴィンの音楽はスライゴーのものなんだ。ケヴィンはロンドンでアイルランド移民のミュージシャンに囲まれて育ったのだけれどそれでも彼の音楽はスライゴーのものだ。スライゴー・スタイルの偉大なフィドル奏者のマイケル・コールマンの様にね。パディのスタイルはよりアグレッシブで、ケヴィンのスタイルはよりレイドバックしたものと言えるね。
〔後記〕兄妹達が本当に仲良く掛け合いの様に話してくれた様子をお伝え出来ただろうか。最後に付け加えさせて頂くと、実はこのインタビューの前週に彼らに会った(再会)した折りに、筆者はミホールに対して『リプリーズ』の素晴らしさを讃えると同時に、ファンの欲の深さ故にどうしても次の録音の計画を尋ねない訳にはいかなかった。何でも本当に気さくに話してくれるミホールであるが、しかしその時の答えは次の様なものであった。「それだけは聞かないでおくれよ。何も決まっていないし、将来の計画を話すとそれは実現しないものになってしまうのだからね(未来は分からないという意味なのだろう)。」筆者はこの言葉に彼のアーティストとしての純粋さと誠実さを改めて痛感させられたのであった。なおマーティン・オコーナー(アコーディオン)、リーシャ・ケリー(ハープ)、カハル・ヘイデン(フィドル、バンショー)を加えた今回の6人の顔ぶれでの公演はこれが最初でそして恐らく今後2度とは無いだろうとの事だったが、ミホールとしても非常に気に入ったステージが出来たので、もし可能ならばまたこの形でやりたいとも語っていた。ともあれ、ミホールが(そしてトリーナやモレート達が)次はどんな音楽を聞かせてくれるのか、彼らのアーティストとしてのインスピレーションを信じて楽しみに待ちたいものである。