白石和良さんによる、ミホール/トリーナ/モレート・インタビュー

3.トリーナのクラヴィネット

     

Q:次にトリーナさんのメインの楽器であるクラヴィネットについて伺いたいのですが。この珍しい楽器を演奏するミュージャンは他に殆どいないと思いますが、何故クラヴィネットを演奏する様になったのですか?

ト:私がこの楽器と出会ったのは本当に偶然の事なの。スカラブレイの録音の直前の事、私はどんなものであれ鍵盤楽器を探していたのです。ミホールやモレートと一緒に歌っていたけれど、私はピアノを演奏出来るので持ち運び出来る鍵盤楽器を探していた。それでダブリンの店でこの楽器と出会ったという訳です。

ミ:それはアイルランドでただ1台のクラヴィネットだったろうね。

ト:そう、それ1台だったでしょうね。私は最初何の楽器か分からなかったの。どういう音かも分からなかった...でも、この楽器を手に入れる事が出来てラッキーだったわ。ハープシコードにとても近いサウンドなのでとても気に入ってしまったの。最初、電気オルガンとかピアノをコンサートで使用する事を考えていたのだけれど、これはとてもポータブルな楽器ですし..この楽器の発明者はホーナー社で働いていたのだけれどほんの少しの限定台数しか作られませんでした。後でホーナー社は同じ楽器の別のモデルを作ったけれど...

Q:クラヴィネットというのは一言で言えばエレクトリック・ハープシコードだと思えば良いのですか。

ト:正確にはエレクトリック・クラヴィコードと言うべきね。何故ならクラヴィコードの弦は叩かれるのに対して、ハープシコードの弦はかき鳴らされるのですから...本物のクラヴィコードはとてもデリケートで静かな音の楽器なの。

Q:そうですね。アコースコィックのクラヴィコードの音を知っていますが、非常に小さな音ですね。
〔付記:クラヴィコードとはヨーロッパの有弦鍵盤楽器では最も古い楽器で、14〜15世紀から使われ始め、16世紀にヨーロッパ中に普及した。トリーナも説明してくれた様にその発音原理は、ハープコードの様に弦を(プレクトリムと呼ばれる爪で)ひっかくものではなく、弦を(タンジェントとよばれる細い棒によって)打つ事によるもので、この意味で大雑把に言えばハープシコードよりもピアノの原理に近いが、クラヴィコードの構造は極めてシンプルなもので蚊の音と比べた方が良いとまで言われる程、音量が小さい。しかしヴィブラートをかける事の出来る唯一の鍵盤楽器でもあり、最も微妙なニュアンスと色彩に富んだ楽器とも形容されていて、近年は一部で再び注目が集まっている。ともあれ、その音は(ごく荒っぽく形容してしまえば)ハープシコードをもっともっと繊細にした様なものと言えなくもない。このクラヴィコードに電気的な拡声装置を組み込んだのが、クラヴィネットという訳なのだろうが、実際本物(アコースティック)のクラヴィコードをある程度の規模以上のコンサート会場で使用するのは音量的に不可能であり、生の音が基本であるクラシックの分野でもアコースティック・クラヴィコードの音はマイクで拾ってアンプで拡声する事がある。〕

Q:先程クラヴィコードはハープシコードみたいな音なので気に入ったと言われましたね。ショーン・オリアダが昔のアイリッシュ・ハープのサウンドを再現しようとしてハープシコードを使ったというエピソートは有名ですが、トリーナさん自身も同じ様にアイリッシュ・ハープの音を求めるという意図はあったのでしょうか..〔ショーン・オリアダ(193-1971)がソロでハープシコードを弾いたアルバム『O RIADA'S FAREWELL』 (アイルランドCLADDAGH CC12,'72)を取り出して見せた。〕

ト:私はハープは演奏出来ないですし...キーボード、ピアノが好きなのです。そのオリアダのアルバムは素晴らしいものだと思います。とくにこの楽器のサウンドについてはノイズだらけだと多くの人が語っていますが、単に普通でないだけの事だと思います。〔注:ノイズだらけというのは、(聞き慣れない人々にとって)ハープシコード独特の演奏雑音が気になるという事と、それに加えて(パディー・モローニーの記述によれば)このアルバムでオリアダが弾いていた楽器の調子が実際良くなかった事の両方の原因よるのだろう。〕しかし私にとっては本当に素晴らしいものです。それはオリアダが早すぎた死の直前に行った最期の録音ですよね。そう、私はいつもハープシコードのサウンドには惹かれていました。クラヴィコードについては実際にはよく知りませんでしたが、私はクープラン(ハープシコードやオルガンの曲で知られる18世紀のフランスの作曲家) みたいなクラシック音楽によく親しんでいましたので、ハープシコードのようなサウンドを求めるという発想もありました..。そういったサウンドに近くて、持ち運びが出来て、歌の伴奏が出来るこのクラヴィネットに出会えて本当にラッキーだったわ。

〔付記:インタビューの後、トリーナに更に聞いたところ、クラシックではバッハ、ドビッシー、ベートーベン、バルトークなどが好みだとか。〕

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